未来の価値 第32話


「まあ、それでスザクさん落ち込んでいるのですね」
「・・・ルルーシュ、許してくれないんだよ」

もうあれから4日だよ。
はあ、とスザクは大きなため息を吐いた。
ため息を吐けば幸せが逃げるというけど、吐かずにはいられない。
これだけ長時間ルルーシュが怒りを維持しているのは、7年前と再会した後合わせて考えても初めてのこと。
ナナリーは困ったお兄様ですと眉尻を下げ、スザクを慰めるようにその手を取った。

「でも、それだけルルちゃんが心配したってことでしょ。私だって話を聞いてびっくりしたわよ」

逃げ場のない狭い通路。
待ち構える砲台。
相手の弾丸は1発でKMFを破壊する。
そんな兵器に対し命じられるがままに真正面から特攻を仕掛けたのだ。
こうして無事な姿を見ながら聞いても肝が冷えたのだから、その場で見ていたルルーシュは血の気が引いたに違いない。

「見た目と違って、無茶するのねスザク君は」

ミレイが苦笑しながら立ち上ると、ポンポンとスザクの頭を叩いた。
それを「うわ、いいなスザク!」と、羨ましそうにみていたのはリヴァル。
だが、スザクの気持ちは一向に浮上せず、再び息を吐いた。

「でも、ルル大丈夫かな?スザク君がいないからって無理してない?」

シャーリーの声に辺りはしんと静まり返り、スザクの顔色がさっと変わった。
ルルーシュの機嫌が悪い、許してくれない。
そればかり気にしていたが、そうだ、ルルーシュがまた無理をしている可能性は考えていなかった。今日は火曜。河口湖は土曜。もう1週間以上一緒に休んでいない。その間、ちゃんと休んでいるのか?

答えは否。
まずい。
また幻覚を見始めるほど無茶をしてる可能性は高い。
スザクは慌てて立ち上がると、鞄を手に取った。

「僕、戻ります!」
「戻りますって、どうする気?」
「土下座してきます!ナナリー、また来るからね」
「はい、頑張ってくださいねスザクさん。お兄様を宜しくお願いします」

ナナリーはにっこり笑顔でスザクを見送った。



政庁へ戻ると、ルルーシュの部屋の前にジェレミア達が集まっていた。
何かあったのだろうか、足早に近寄ると、近づいてくるスザクに気付いたジェレミア達はどこかほっとしたような表情を浮かべた。

「枢木、丁度良かった」
「ジェレミア卿、何かあったんですか?」

何も無かったらこんな青い顔で彼らが集まるはずはないのだが、それでも恐る恐るスザクは尋ねた。

「ルルーシュ殿下のお姿を、今朝から見ている者がいなくてな・・・」
「え?・・・えーと、今日の公務は?」
「今日はお休みを取っておられるのだ」

休み!?
そんな話は一切聞いていなかったスザクは慌ててた。
何かがあればジェレミア達から連絡が入るが、休みだと彼らと接触する可能性は格段に下がる。何かあっても・・・部屋の中で倒れていても、誰も気づかないのだ。
だから、彼らも気になってこうして様子を伺いに来たのだろう。
大体休みなのに教えてくれないなんてどういう事だろう。
・・・これはまだ怒っているって事なのかもしれない。

「確認します」

慌てたスザクはカードキーを差し込み、静脈認証に手を掛けたのだが、聞き慣れないエラー音が響いただけでロックは解除されなかった。
え?という顔でスザクはエラー表示を見た後、再度キーを差し込み、センサーに手を置く。だが再びエラー。

「こ、これは一体・・・」

ジェレミアが動揺し、殿下!殿下!と、ルルーシュの部屋のドアを勢いよく叩いが、皇族の私室は内部の音が漏れないように、あるいは外部の雑音が入らないように防音となっている為、ドアを叩いた所で中には届かない。
どうする。
強引に中に入るか。
これだけ頑丈な扉なら、こじ開けるより壁を壊した方が早いだろう。
いや、壁を壊すぐらいなら。

「ジェレミア卿。僕が窓から中へ入ります」
「窓!?だがあの窓は」
「防弾加工された強化ガラスですが、この壁よりは脆い。・・・壊して入ります」
「ならば、クロヴィス殿下の許可を頂き、工作班も動かそう」
「ルルーシュには怒られるでしょうが・・・全部、僕の責任にしてください」

出入り禁止にされるほど怒らせた上に、部屋に突入しようとしている。
どれほど重い処罰をされるか・・・下手をすれば死罪になりかねない。
それを覚悟の上でスザクが言っているのだ。
普段は穏やかな笑みを浮かべ、物腰柔らかなスザクだが、低く感情を押し殺した声と鋭く瞳を細めた姿が、まるでこの部屋に閉じ込められた主を救い出そうとしている騎士の姿に見え、ジェレミアは知らず感動を覚えていた。
これ以上ルルーシュを怒らせるという事に、河口湖での特攻以上の恐怖を感じたが、安否確認の方が大事だと、スザクは外に出られる場所を探そうとしたのだが。
スザクの携帯の着信音が鳴り響き、ルルーシュからかもと慌てて電話に出た。
だが、残念ながらルルーシュではなく、セシルからの電話だった。

『スザク君、学校の方はもう終わっているかしら?』

いつもの穏やかな口調で話すセシルに、緊急事態では無さそうだと判断した。

「はい、今政庁にいるんですが」

これからルルーシュの部屋に突入するので・・・。
そう続けようとしたのだが。

『あら、丁度いいわ。こちらに来るときに、ロイドさんがよく買いに行くあの洋菓子店に寄って来てほしいの』
「洋菓子店?」

セシルがこんな頼みをしたことなど無い。
スザクは思わず目を眇め眉を寄せた。
基地から10分ほどのにある店だから、ロイドが鼻歌を歌いながら毎日買いに行っているはずだ。なにせあの店はロイドのひいきの店。新作がないかチェックするため、その店だけは自分で・・・。
そこまで考えてスザクはハッとなった。

「セシルさん、どうしてあの洋菓子店に?」

ロイドの好物の洋菓子。
それを出す相手。
まさか。

『流石に殿下にお出しするには、私の手作りのお菓子では失礼でしょう?』
「セシルさん、殿下って、ルルーシュ!?」

スザクの慌てた声に、周りはざわめいた。
セシルがルルーシュにお菓子を。
つまりルルーシュは特派にいるという事か。

『ええそうよ。殿下はプリンがお好きだとスザク君言ってたでしょう?』
「はい、ルルーシュはプリンが大好きで・・・っ、セシルさん。ルルーシュは今そこにいるんですか?」
『ええ、前々から今日来られると言っていたでしょう?忘れたのスザク君』

それなのにスザク君、授業が終わった時間になっても戻らないから、何か用事で出かけてるとおもってたのよ。

「聞いてません!!今からすぐ戻りますので、ルルーシュが何処にも行かないよう見ててください!」

スザクは電話を切ると、その場を駆けだした。


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